PRMツール導入で成果を出す海外事例と日本企業の取り組み

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PRMが注目される背景と市場の成長性

近年、BtoB企業において販路拡大の重要性が高まる中、PRM(Partner Relationship Management:パートナーリレーションシップマネジメント)という概念が注目を集めています。PRMとは、ベンダーとパートナーの良好な関係を築くためのビジネス戦略手法であり、直販だけでは限界がある企業にとって、認知度向上や販路拡大のための有効な手段となっています。

KBV Researchの市場調査レポートによると、PRMの市場規模は2021年から2027年の間に年平均成長率11.9%で成長し、2027年には21億米ドルに達すると予想されています。この数値が示す通り、世界的にPRMへの期待値は非常に高く、特に海外企業では既にPRMツールを活用した成功事例が数多く報告されています。

パートナーの特徴に合わせて複数のパートナープログラムを用意し、販売チャネルを拡大していくことにより、企業は様々な収益源を確保できます。これにより、単一の販路に依存するリスクを低減し、より安定したビジネス基盤を構築することが可能になります。

海外企業に見るPRMツール導入の成功パターン

海外、特に米国ではPRMツールを導入し、業務効率化や売上向上を実現している企業が多数存在します。ここでは、具体的な成功事例を詳しく見ていきましょう。

National Instruments:2年間で売上120%向上を達成

半導体などを扱う国際的なエンジニアリング会社であるNational Instrumentsは、700社を超えるパートナーとビジネスを展開しています。PRMツールを導入した結果、2年間で120%の売上向上、NPSを30%向上させることに成功しました。

同社は国際的なパートナープログラムを運営しており、「Alliance Day」のような大規模イベントを開催するとともに、PRMツールを通じてパートナーとのコミュニケーションを効率的に管理しています。パートナー向けに他社の優良事例を情報交換できるイベントを開催することで、パートナー同士の学び合いを促進し、エコシステム全体の成長を実現しています。

※NPS(Net Promoter Score)とは:
企業や商材に対する顧客の満足度や愛着度を測る「顧客ロイヤリティ」を表す指数です。顧客が商品やサービスを他者に推奨する可能性を数値化したもので、ビジネスの健全性を測る重要な指標として活用されています。

ViaWest:パートナー申請数30%増加と業務効率化を実現

ViaWestは以前、マニュアルでパートナーとのやり取りを管理していましたが、PRMツール導入によってパートナープログラムやパートナー登録など一貫して自動で管理できる体制を構築しました。その結果、工数削減とパートナー申請数30%増加を実現しています。

この事例は、PRMツールが単なる営業支援ツールではなく、業務プロセス全体を最適化する基盤となることを示しています。手作業による管理から解放されることで、より戦略的な活動に時間を割くことができるようになります。

SGI:MDFリクエストが3倍に増加

SGIではPRM導入後、パートナー登録数が20%上昇し、MDFの要求が以前に比べて3倍に増えました。また、マーケティングに注力できる積極的なパートナーが増加しています。

※MDF(Marketing Development Fund)とは:
パートナーがマーケティング施策として展示会に出店し、ベンダーの商材の販促活動を行う場合、これに関わるマーケティング費用の一部をベンダーが負担する仕組みです。負担比率は一般的に50%対50%が多く、パートナーのマーケティング活動を支援する重要な施策となっています。

SerkoとYourSix:オンボーディング強化による成果

ニュージーランドに拠点を置きながら、ヨーロッパに6,000社近くのパートナーを持つSerkoでは、PRMツール導入によって全てのパートナーに対して適切なマネジメントができるようになりました。課題となっていたのは、国際的なパートナーが多いため情報共有のサポート体制が弱く、パートナーが自信を持ってプレゼンテーションできないという点でした。

この課題を克服するため、PRMツールを導入し、オンボーディング施策や説明ページを制作することで、パートナーのセールス力を向上させることに成功しています。同様に、YourSixも153社のパートナーとのオンボーディングに成功し、販路拡大が以前に比べて容易になりました。

これらの事例から、契約締結後のパートナーフォローが販売成果に直結することが明確に示されています。契約しただけではパートナーは効果的に販売活動を行えないため、継続的なサポート体制の構築が不可欠です。

CloudBeesとSungard:エンゲージメント向上による成果

約50社のパートナー管理をシンプルにしたいという課題を持っていたCloudBeesは、PRM導入後、ウェビナーの参加者数が前年比約3倍、パートナーのエンゲージメントも3.5倍に上昇しました。その結果、売上も大幅に向上しています。

Sungard Availability ServicesもPRMを活用することで、パートナープログラムや、マーケティング施策、営業支援などの情報をパートナーが気軽に閲覧できる環境を整備しました。その結果、パートナープログラムの視聴回数は30%上昇し、リード顧客の獲得やパートナーの満足度も向上しています。

情報発信のページを一元化し、企業のアップデート情報を配信することで、効果的なオンボーディングを実現しています。特にSaaS企業ではUI/UXの変更や新機能追加が頻繁に行われるため、パートナーが迷った際に参照できるサイトを整備することは非常に有効です。

企業名 主な課題 導入効果
National Instruments 700社超のパートナー管理 2年間で売上120%向上、NPS30%向上
ViaWest マニュアル管理による非効率 時間削減、パートナー申請30%増加
SGI パートナーのマーケティング支援不足 パートナー登録20%増、MDF要求3倍増
Serko 国際パートナーへの情報共有不足 6,000社への適切なマネジメント実現
CloudBees パートナー管理の複雑化 ウェビナー参加3倍、エンゲージメント3.5倍

日本企業におけるPRM実践事例

日本国内では、PRMツールを導入している企業はまだ少数ですが、パートナープログラムを構築し、独自のアプローチで成果を上げている企業が存在します。ここでは、日本企業の先進的な取り組みを紹介します。

マネーフォワード:士業事務所との公認パートナー制度

マネーフォワードは士業事務所に対して公認パートナー制度を導入しています。この制度により、士業事務所は専任担当によるサポートなどの支援を受けられ、ベンダーは士業事務所を通じて顧客基盤を拡大できるという、双方にメリットのある仕組みを構築しています。

士業事務所は既に顧客との信頼関係を構築しているため、そのネットワークを活用することで効率的な販路拡大が可能になります。これは、紹介販売の典型的な成功パターンといえるでしょう。

サイボウズ:多様なサポート体制と柔軟なパートナー区分

サイボウズは情報提供、ツール提供、マーケティング支援など、様々なタイプのサポート体制を準備しています。また、パートナーの種類も2種類用意しており、気軽にパートナーになりやすい設計となっています。

パートナープログラムの効果を促進するために、同社では以下のような仕組みを設けています。

  • 自社との連絡窓口の担当者設置
  • 活動報告書の提出義務
  • 年会費の設定

これらの施策により、パートナーのモチベーションを維持し、継続的な活動を促進しています。適度なコミットメントを求めることで、真剣に取り組むパートナーとの関係構築を実現しています。

SmartHR:API連携によるエコシステム構築

SmartHRはAPIやWebhookを活用してサービス間のデータ連携を推進しています。例えば、社内の労務システムとデータ連携を行うことで、入退職時の定型業務などバックオフィスの効率化を図ることができます。

技術的な連携を通じてパートナーシップを構築することで、顧客にとってより価値の高いソリューションを提供できる体制を整えています。

カオナビ:多様なパートナータイプと手厚い支援

カオナビは営業資料の提供やパートナー向けの勉強会の実施など、手厚い営業支援を行なっています。特徴的なのは、協業手法が豊富に用意されている点です。

パートナータイプ 役割と特徴
コネクトパートナー サービス連携やAPI連携などのパートナーシップを担当
コラボレーションパートナー マーケティングや共同研究などのパートナーシップ
コンサルティングパートナー カオナビを活用した人事・人材コンサルティング領域でのパートナーシップ
セールスパートナー セールス領域の戦略的連携などのパートナーシップ

さらに、資金支援やノウハウ共有、チャネル・サービス連携を行い、シナジーを創出するファンドの運営も行なっています。販売パートナーだけでなく、企業連携を通じた顧客獲得や販路拡大を目指している点が特徴的です。

PRMで成功するための4つの重要要素

これまで紹介してきた海外・国内の事例から、PRMを成功させるためのポイントが見えてきます。ここでは、PRMで成果を出すための重要な要素を整理します。

1. 先行投資を惜しまない姿勢

パートナーの開拓、契約、育成から実際に効果が出てくるまでには、一定の時間と費用が必要です。短期的な視点ではROIが見えにくい場面もありますが、パートナーが適切に機能すれば、投資した以上の価値が返ってくることが多くの事例で証明されています。

先行投資として時間・予算ともに十分に確保し、長期的な視点でパートナーエコシステムを構築することが重要です。特に初期のオンボーディング期間には、手厚いサポートが必要となります。

2. 強力で柔軟なチーム体制の構築

PRMはパートナーをサポートし、円滑にやり取りを行うための戦略です。そのためには、まずベンダー側で強力なチームを作り出し、柔軟に対応できる体制を整える必要があります。

代理店戦略において、ベンダー側が情熱を持って取り組むことが成功の鍵となります。パートナーからの問い合わせに迅速に対応できる体制、継続的な情報提供ができる仕組み、定期的なコミュニケーションを取れる関係性など、ベンダー側の体制整備が前提となります。

3. 段階的なPRM導入プロセス

PRM導入を効果的に進めていくためには、段階を追って実施することが重要です。一気にすべてを進めようとするのではなく、以下のようなステップで着実に進めていくことをお勧めします。

  • ステップ1: パートナープログラムの設計と整備
  • ステップ2: パートナーの開拓と選定
  • ステップ3: オンボーディングと育成プログラムの実施
  • ステップ4: 営業支援ツールや資料の提供
  • ステップ5: 成果の測定と分析
  • ステップ6: 継続的な改善とプログラムの最適化

各プロセスを丁寧に進めることで、持続可能なパートナーエコシステムを構築することができます。

4. 実践と継続的な改善サイクル

PRM導入後は、パートナー側からフィードバックや懸念点、問題点などを積極的に収集し、継続的に改善していくことが不可欠です。これは多数のパートナーと連携する前に、パイロットプログラムとしていくつかのパートナーに協力してもらい、検証していく必要があります。

実際の運用を通じて見えてくる課題を改善することで、より効果的なプログラムへと進化させることができます。PDCAサイクルを回し続けることが、PRM成功の鍵となります。

編集部コメント

PRMは単なるツール導入ではなく、パートナーエコシステム全体を設計する総合的な戦略です。海外事例を見ると、PRMツールを活用することで業務効率化だけでなく、パートナーのエンゲージメント向上や売上増加など、多面的な成果を実現していることがわかります。日本国内でもPRMへの認知が高まりつつありますが、まだ発展途上の段階です。今後、グローバル市場で競争力を維持するためには、戦略的なパートナーマネジメントが不可欠となるでしょう。特にSaaS企業やBtoB企業においては、直販だけでなくパートナーチャネルを効果的に活用することが、スケーラブルな成長を実現する重要な要素となります。先行投資を惜しまず、段階的にPRMを導入することで、持続可能な販路拡大とビジネス成長を実現できるはずです。

まとめ:PRMの可能性と日本市場への展開

海外ではPRMの一環としてPRMツールを用いて、作業効率化向上、売上増加、パートナーの満足度向上、モチベーション向上などの効果を出している施策が多く見られました。一方で、日本国内ではまだPRMやツールの認知度が低く、普及の余地が大きいのが現状です。

しかし、紹介した日本企業の事例からもわかる通り、パートナープログラムを適切に設計し、継続的な支援を行うことで、着実に成果を上げることは可能です。今後、日本市場においてもPRMの重要性が認識され、より多くの企業が戦略的にパートナーエコシステムを構築していくことが予想されます。

準備や他社との連携、支援・改善など、やるべきことが多く一筋縄では行かないPRM施策ですが、段階を追って丁寧に進めていけば、ビジネスの可能性は大きく広がります。特に、販路拡大や市場浸透に課題を感じている企業にとって、PRMは有力な選択肢となるでしょう。

今回紹介した導入企業の事例を参考に、自社のビジネスモデルに適したPRM戦略を検討してみてはいかがでしょうか。パートナーとの協業を通じて、新たな成長機会を創出することができるはずです。

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