マーケティングオートメーション導入状況調査2025年10月版

国内23万サイトから見えるマーケティングテクノロジーの最新動向
デジタルマーケティングの領域において、企業が導入するWebサービスやツールの選択は、ビジネスの成否を左右する重要な要素となっています。DataSign社が2025年9月に実施した「Webサービス調査レポート 2025年10月度」では、国内232,249サイトを対象に、42カテゴリ・1,300種類以上のサービス利用状況を調査しました。
本調査は、どこどこJP搭載の組織URL 232,249件を対象に、webtruを用いたクローリングによる独自の特許技術を活用して実施されています。この技術により、ウェブサイト閲覧時に発生する「ドメインが異なるURLへのHTTPリクエスト」からサービスを特定することで、ウェブサイト管理者が明示的に利用を公表していないサービスについても検出が可能となっています。
今回の調査結果から、Google アナリティクスが143,442サイト(61.8%)で導入されているほか、Google Fontsが133,178サイト(57.3%)、Display & Video 360が66,547サイト(28.7%)で利用されるなど、Googleエコシステムがデジタルマーケティング基盤として圧倒的なシェアを占めていることが明らかになりました。
マーケティングオートメーション市場の勢力図
特に注目すべきは、マーケティングオートメーション(MA)カテゴリの動向です。調査対象の232,249サイトのうち、8,796サイトでMAツールが検出され、45種類のサービスが利用されていることが判明しました。
| 順位 | サービス名 | 検出数 | カテゴリ内比率 |
|---|---|---|---|
| 1位 | BowNow | 2,005 | 22.8% |
| 2位 | HubSpot | 1,907 | 21.7% |
| 3位 | Account Engagement(旧Pardot) | 1,125 | 12.8% |
| 4位 | Adobe Marketo Engage | 630 | 7.2% |
| 5位 | SATORI | 426 | 4.8% |
| 6位 | List Finder | 422 | 4.8% |
| 7位 | B-dash | 362 | 4.1% |
| 8位 | KASIKA | 336 | 3.8% |
| 9位 | Kairos3 MA | 326 | 3.7% |
| 10位 | SHANON MARKETING PLATFORM | 231 | 2.6% |
トップに立つBowNowは2,005サイトで導入されており、MAカテゴリ全体の22.8%を占めています。僅差で2位につけたHubSpotは1,907サイト(21.7%)で、この2社がマーケティングオートメーション市場を二分する構図となっています。
BowNowは国産のMAツールとして、中小企業でも導入しやすい価格設定と日本語サポートの充実が評価されています。一方、HubSpotは世界120カ国以上で利用されているグローバルスタンダードなMAツールとして、CRM機能との統合性や充実したコンテンツマーケティング機能が支持を集めています。
3位のAccount Engagement(旧Pardot)は1,125サイト(12.8%)で検出されました。Salesforceのエコシステムと深く連携できる点が強みであり、既にSalesforce CRMを導入している企業にとっては自然な選択肢となっています。4位のAdobe Marketo Engageは630サイト(7.2%)で、エンタープライズ企業を中心に高度なマーケティング施策を実現するツールとして位置づけられています。
国産MAツールの健闘と多様化する選択肢
注目すべきは、トップ10のうち7つが国産のマーケティングオートメーションツールであるという点です。BowNow、SATORI、List Finder、B-dash、KASIKA、Kairos3 MA、SHANON MARKETING PLATFORMと、日本の企業ニーズに特化したツールが多数ランクインしています。
SATORI(426サイト、4.8%)は、匿名顧客へのアプローチができる点が特徴的で、BtoBマーケティングにおいて早期段階からのリード獲得を重視する企業に選ばれています。List Finder(422サイト、4.8%)は、名刺管理ツールとの連携に強みを持ち、オフラインとオンラインのマーケティング活動を統合したい企業に支持されています。
B-dash(362サイト、4.1%)は、データマーケティングプラットフォームとしてMA機能を含む幅広い機能を提供しており、データ統合基盤としての役割も果たしています。KASIKA(336サイト、3.8%)は、Webサイトの訪問企業を可視化し、営業活動に直結させる機能が評価されています。
また、11位以降を見ると、probance(190サイト、2.2%)、WEBCAS(180サイト、2.0%)、SalesAutopilot(166サイト、1.9%)、Oracle Eloqua(155サイト、1.8%)、SPIRAL(143サイト、1.6%)と続いており、企業規模や業種、マーケティング戦略に応じて多様な選択肢が存在することがわかります。
周辺ツールとの連携が生むマーケティングエコシステム
マーケティングオートメーションツールの効果を最大化するためには、関連する周辺ツールとの連携が不可欠です。今回の調査では、MA以外のカテゴリにおいても興味深い傾向が見られました。
アクセス解析ツールの圧倒的な普及
アクセス解析カテゴリでは、162,782サイトでツールが検出され、そのうちGoogle アナリティクスが143,442サイト(88.1%)と圧倒的なシェアを占めています。マーケティングオートメーションツールとGoogle アナリティクスを連携させることで、顧客行動の詳細な分析とマーケティング施策の最適化が可能になります。
タグマネージャの導入拡大
タグマネージャカテゴリでは、65,132サイトでツールが検出されました。Googleタグマネージャが60,102サイト(92.3%)と主流となっており、マーケティングツールの導入や管理を効率化する基盤として機能しています。MAツールのトラッキングタグもGoogleタグマネージャ経由で管理することで、運用の柔軟性が向上します。
ヒートマップツールによる行動分析
ヒートマップカテゴリでは18,312サイトでツールが検出されました。Clarity(11,642サイト、63.6%)、ユーザーヒート(2,739サイト、15.0%)、ミエルカヒートマップ(2,400サイト、13.1%)が上位を占めています。これらのツールをMAと組み合わせることで、訪問者の行動パターンを可視化し、コンバージョン率の向上につなげることができます。
CDP・DMPによるデータ統合
CDP(カスタマーデータプラットフォーム)カテゴリでは3,107サイトでツールが検出され、トレジャーデータが2,772サイト(89.2%)と圧倒的なシェアを持っています。データ収集カテゴリでは18,110サイトでツールが検出され、IM-DMP(4,391サイト、24.2%)、IM-UID(2,980サイト、16.5%)、TAPAD(2,161サイト、11.9%)が上位にランクインしています。
これらのデータ統合基盤とマーケティングオートメーションツールを連携させることで、オンライン・オフラインを含む多様な顧客接点データを統合し、より精緻なセグメンテーションとパーソナライゼーションが実現できます。
広告・チャネル展開におけるツール活用状況
マーケティングオートメーションは、リード獲得から育成、商談化までの一連のプロセスを自動化・最適化するものですが、そもそもリードを獲得するための広告施策も重要な要素です。
デジタル広告ツールの利用動向
広告カテゴリでは216,815サイトでツールが検出されました。Display & Video 360(66,547サイト、30.7%)、Google広告(52,316サイト、24.1%)が上位を占め、続いてX広告(14,074サイト、6.5%)、Meta広告(11,308サイト、5.2%)、Yahoo! 広告(10,340サイト、4.8%)となっています。
これらの広告ツールとマーケティングオートメーションを連携させることで、広告経由で獲得したリードを自動的にスコアリングし、適切なナーチャリング施策へと誘導できます。特に、Googleエコシステム内での連携は、顧客のカスタマージャーニー全体を可視化する上で有効です。
チャットツールによる顧客接点の強化
チャットカテゴリでは2,348サイトでツールが検出されました。チャットプラス(466サイト、19.8%)、Zoho SalesIQ(339サイト、14.4%)、サポートチャットボット(206サイト、8.8%)が上位となっています。
チャットツールとMAツールの連携により、Webサイト訪問者とのリアルタイムなコミュニケーションを通じて得られた情報を顧客データベースに蓄積し、その後のマーケティング施策に活用できます。特にBtoBマーケティングでは、チャットでの問い合わせを起点に営業プロセスへとシームレスに接続する動きが加速しています。
ウェブ接客ツールの活用
ウェブ接客カテゴリでは1,801サイトでツールが検出されました。KARTE(339サイト、18.8%)、TETORI(330サイト、18.3%)、MATTRZ CX(255サイト、14.2%)が上位を占めています。
ウェブ接客ツールは、訪問者の行動履歴や属性に応じてリアルタイムにコンテンツを出し分ける機能を持っており、MAツールと組み合わせることで、より高度なパーソナライゼーションが実現できます。特にEコマースサイトでは、カゴ落ちの防止や追加購入の促進に効果を発揮しています。
プライバシー対応とデータガバナンスの重要性
マーケティングオートメーションをはじめとするマーケティングテクノロジーの活用が進む一方で、パーソナルデータの取り扱いに関する透明性と適切な管理がますます重要になっています。
同意管理ツールの導入状況
同意管理ツールカテゴリでは3,734サイトでツールが検出されました。OneTrust(1,275サイト、34.1%)、CookiePro(1,162サイト、31.1%)が上位を占めています。これらのツールは、Cookie利用に関するユーザーの同意を適切に管理し、GDPR(EU一般データ保護規則)やその他のプライバシー規制に対応するために導入されています。
マーケティングオートメーションツールが収集・活用するデータについても、透明性のある説明と適切な同意取得が必要です。同意管理ツールとMAツールを連携させることで、ユーザーの同意状況に応じたデータ活用とマーケティング施策の実施が可能になります。
セキュリティツールの実装
セキュリティカテゴリでは30,917サイトでツールが検出され、そのうちreCAPTCHA(30,192サイト、97.7%)が圧倒的なシェアを持っています。Spider AF(344サイト、1.1%)、GRED Web改ざんチェック Cloud(208サイト、0.7%)も利用されています。
マーケティングツールを通じて収集される顧客データを保護し、不正アクセスやボット攻撃から守ることは、企業の信頼性を維持する上で不可欠です。セキュリティ対策とマーケティング活動は両立させる必要があります。
BtoBマーケティングにおけるMA活用の今後
今回の調査結果から、マーケティングオートメーションをはじめとするマーケティングテクノロジーの導入が着実に進んでいることが明らかになりました。特に、国産ツールが多数ランクインしている点は、日本市場特有のニーズに対応したソリューションが求められていることを示しています。
BtoBマーケティングにおいては、リードの獲得から育成、商談化、そして既存顧客のロイヤリティ向上まで、一貫したカスタマーエクスペリエンスの提供が求められています。マーケティングオートメーションツールは、この一連のプロセスを効率化し、営業部門との連携を強化する上で中心的な役割を果たします。
また、マーケティングオートメーション単体での効果には限界があり、アクセス解析、ヒートマップ、CDP/DMP、広告ツール、チャット、ウェブ接客など、複数のツールを統合的に活用するマーケティングエコシステムの構築が重要になっています。
さらに、生成AIの台頭により、情報検索の在り方が大きく変化しています。従来のSEO(検索エンジン最適化)に加えて、LLMO(Large Language Model Optimization:大規模言語モデル最適化)という新たな概念が注目を集めています。生成AIによる回答において自社情報の可視性や引用率を高めることが、今後のマーケティング戦略において重要な要素となるでしょう。
マーケティングオートメーションツールも、生成AIとの連携によって進化していくことが予想されます。コンテンツ生成の自動化、顧客対応の高度化、予測分析の精度向上など、AI技術の活用によってマーケティング活動の効率と効果は大きく向上する可能性があります。
一方で、パーソナルデータの取り扱いに関する規制は世界的に厳格化の方向にあります。EU一般データ保護規則(GDPR)をはじめ、各国でプライバシー保護に関する法整備が進んでおり、日本でも個人情報保護法の改正が行われています。マーケティングテクノロジーを活用する企業には、法令遵守と透明性の確保がより一層求められます。
DataSign社が本調査を通じて目指しているのは、企業や消費者が安心してデータを管理・活用できる世界の実現です。Webサービスにおけるパーソナルデータ活用の実態を可視化し、オンラインプライバシー運用への取り組みを改善することで、健全なデジタルマーケティングエコシステムの発展に貢献していくことが期待されます。
編集部コメント
今回の調査では、マーケティングオートメーション市場において国産ツールが健闘している点が印象的でした。BtoBマーケティングにおいては、日本企業特有の商習慣や営業プロセスに対応できることが重要であり、グローバルツールと国産ツールがそれぞれの強みを活かして共存している状況が見て取れます。また、MA単体ではなく、周辺ツールとの統合的な活用が成果を左右する時代になっており、マーケティングテクノロジースタックの設計能力が企業の競争力を決定づけると言えるでしょう。さらに、プライバシー保護への対応は、今後のマーケティング活動において避けて通れない課題です。データ活用の透明性を高めながら、顧客との信頼関係を構築していくことが、持続可能なマーケティング戦略の基盤となります。DataSign社のような第三者機関による定期的な調査・公表が、業界全体の健全な発展に寄与することを期待したいと思います。






